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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)13643号 判決 1988年6月28日

原告 株式会社日本リース

右代表者代表取締役 西尾哲夫

右訴訟代理人弁護士 木戸孝彦

同 池田映岳

同復代理人弁護士 原田肇

被告 更生会社日東工営株式会社 管財人 中根宏

被告 更生会社日東工営株式会社 管財人 藤井鎮男

右被告両名訴訟代理人弁護士 市野澤邦夫

主文

一  原告の金員支払いを求める訴を却下する。

二  原告の物件の引渡を求める請求(付帯請求を含む)を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、別紙物件目録記載の物件(以下「本件リース物件」という。)を引渡し、かつ、昭和五九年五月一六日から引渡しずみまで一か月金三万四六六〇円の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告に対し、金一二七万四五六五円及びこれに対する昭和五九年五月一六日から支払いずみまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和五六年一一月一八日、訴外日東工営株式会社(以下「日東工営」という。)との間に、原告所有の本件リース物件について大要別紙契約明細のとおりのリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結し、同年一二月一日、本件リース物件を日東工営に引渡した。

2  日東工営は、昭和五八年八月三〇日、東京地方裁判所に対し会社更生手続開始の申立をし、被告管財人中根宏が保全管理人に選任され、同管理人は、昭和五八年九月一六日、原告に対し、同月分以降のリース料の支払いを毎月末日とする旨約した。

3  日東工営は、昭和五八年一二月二三日、会社更生手続開始の決定を受け、被告らが更生管財人に選任された。

4  日東工営及び被告らは、昭和五八年一〇月分以降のリース料の支払いを遅滞したため、原告は、昭和五九年二月八日被告らに到達の内容証明郵便で遅滞にかかるリース料の支払いを催告し、更に同年五月一五日被告らに到達の内容証明郵便で本件リース契約を解除する旨意思表示した。

5  本件リース契約が解除されたことにより、被告らは本件リース契約の約定に基づき原告に対し左記金員の支払義務並びに本件リース物件の引渡義務を負担するに至った。

(一) 二七万七二八〇円

昭和五八年一〇月から昭和五九年五月まで八か月分のリース料合計及び月額リース料に対する各支払期日の翌日から完済まで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金

(二) 一〇五万六〇〇〇円

規定損害金基本額一七八万二〇〇〇円より昭和五六年一二月から昭和五九年四月まで一か月二万四二〇〇円の割合による逓減月額を、同年五月は一か月三万二四〇〇円の逓減月額を控除した規定損害金

6  原告は、前払リース料六万九三二〇円を未払リース料について各支払期日の翌日から解除の日までの年一四・六パーセントの割合による遅延損害金合計一万〇六〇五円及び昭和五八年一〇月分のリース料全額及び同年一一月分のリース料のうち二万四〇五五円の支払いに充当した。従って、未払リース料残額は二一万八五六五円となる。

7  よって、原告は被告らに対し、規定損害金と未払リース料の合計一二七万四五六四円及びこれに対する契約解除の翌日である昭和五九年五月一六日から支払いずみまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金並びに本件リース物件の引渡し及び契約解除の翌日である昭和五九年五月一六日から引渡しずみまで前記約定により一か月三万四六六〇円のリース料相当額の損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、保全管理人が、昭和五八年九月一六日、リース料の支払いを毎月末日に支払う旨約したことは否認し、その余の事実は認める。

3  同3、4の事実は認める。

4  同5、6は争う。

三  被告の主張

1  本件リース契約は以下に述べるようなファイナンスリースで、通常の賃貸借とは異なり、本件リース契約に会社更生法(以下「法」という。)一〇三条の適用はなく、本件リース料債権は更生債権であり、更生手続によってのみ支払いが許されるものである。すなわち、

(一) ファイナンスリースとは、ある物件を必要とする借主が、物件の売主と自主的に売買条件を取り決め、その購入代金の融資を受ける代わりに、リース業者(貸主)に右売買条件にしたがい物件を購入してもらい、それを一定のリース料を支払うことで引渡を受けて使用収益し、リース業者は右リース料により物件の購入代金等の投下資本の回収を図るというものである。

それゆえ、リース料は、通常の賃貸借における貸料とは異なり、物件購入代金にリース期間中の金利、当該物件にかかる保険料等の諸経費、一定の利潤を加算して期間中の全リース料を算定し、これをリース期間に按分して各月のリース料を算出するという方式で決定される。

右のとおりファイナンスリースにおけるリース料は、リース業者の投下資本の回収を目的として設定されるものであるから、期間の中途においてリース契約が解消されることによりリース料の支払い義務も消滅すると、投下資本の回収ができなくなってしまうため、リース期間中の借主からの中途解約を禁止し、また、貸主の担保責任を排除し、危険負担を転換させる等通常の賃貸借とは異なる特約を設け、リース料の支払いを物件の利用から切り離し、確定金銭債権のごとく、物件の利用不能が不可抗力による場合であっても貸主の出捐金等(つまりは投下資本)の回収が図られるようになっている。

以上要するに、ファイナンスリースは対価を得て物件を使用させるという形式を取ってはいるものの、実質は借主に対し物件の購入代金を融資するのと同様の効果を供与する契約であり、通常の賃貸借とは異質で、物件の使用収益と各月のリース料の支払いとの間には対価関係がない。

(二) 法一〇三条は、当事者双方の債務が対価関係にあり、相互にその債権債務を担保視し合っている双務契約において、この対価関係を保障し、会社の相手方を保護する趣旨のもので、一般的には同時履行の抗弁権が成り立つ場合の規定であり、同条にいう双務契約の双方未履行の状態とは、同時履行を主張し得るような「積極的な履行行為」が契約当事者双方に存している場合を意味する。

しかるに、本件リース契約においては、既に物件の引渡がなされており、リース料の支払いがなされない場合にこれに対抗して原告が拒否し得る「積極的な履行行為」はないといわざるを得ない。

また、先にみたとおりそもそもリース料の支払義務とリース物件の使用収益とは対価関係がなく、このことからしても本件リース契約に法一〇三条を適用する余地はない。

前記のとおり、ファイナンスリースは実質金融であり、貸主の地位は、譲渡担保権者、所有権留保売買における留保売主に類似するところ、これらの者の権利に対する更生手続における処遇との公平、権衡からしてもファイナンスリース契約に法一〇三条を適用するべきではない。

2  更生手続開始決定前は保全命令により、手続開始決定後は更生債権として本件リース料の任意の支払いは禁止されていたのであるから、支払いの遅滞ということはあり得ず、保全命令あるいはそれに続く更生手続開始決定後において支払いの遅滞を理由として本件リース契約を解除することはできない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  本件リース契約がファイナンスリースであり、金融的な側面のあることを否定するものではないが、他面原告の所有物件についてリース期間中、リース料という対価を得て、使用収益させるものであり、貸主としては物件を引き渡しただけでは済まず、期間中借主の使用収益を受忍し、借主の使用収益権を妨害しない義務を負担しているのであり、これは通常の賃貸借となんら変わるところはない。この義務が存することは、終始物件の所有権が貸主に帰属し、リース期間満了後に借主が使用を希望する場合には、再リースとしてリース料を徴収すること、最終的には貸主に物件の返還が予定されていることから明かである。

また、リース契約締結時においてリース期間中の全リース料が確定債権として発生するわけではなく、各月のリース料はリース期間の経過にともない随時発生するものであるから、その算出方法がどうあれ、リース料の支払義務と貸主の右受忍義務とは対価関係にある。

要するに、ファイナンスリースであっても、その賃貸の面を見れば通常の賃貸借と何の変わりもないのであり、リース料が企業会計上経費として控除されていることもこれを裏付けるものであり、法一〇三条が適用されるのは当然である。

被告の主張はファイナンスリースにおけるファイナンスの面を強調する余りこの賃貸の面を不当に無視しているものである。

また、被告は譲渡担保権、所有権留保売主の権利との更生手続における公平、権衡をいうが、これらは所有権の帰属が担保機能として用いられているもので(従って、債務あるいは代金を完済すれば所有権は担保設定者、買主に復帰あるいは帰属する。)、これに対しファイナンスリースの場合は、リース物件の所有権は終始貸主に帰属し、借主に所有権が移転することはなく、前述のとおりリース契約終了後にリース物件の使用を継続するのであれば再リース契約を締結しなければならないのであり、およそリース物件についてその所有権の帰属が担保としての機能を果たすことはない。従って、譲渡担保権者、所有権留保売主の地位とファイナンスリースにおける貸主の地位とは異なるものであり、前者との比較において公平、権衡をいうのは正当ではない。

2  右のとおり本件リース契約については、法一〇三条が適用されるところ、被告らは本件リース物件の使用を継続し、原告の返還請求を拒否しているので、被告らはリース契約の履行を選択したものというべく、本件リース料債権は法二〇八条七号に基づく共益債権となる。しかも、リース契約における貸主の未履行債務は前述したことから明らかなように給付に可分性がないから更生手続開始決定後はもとより開始決定前のリース料であっても共益債権としての地位が認められるものというべきである。

そして、共益債権については更生手続によらないで随時弁済がなされるべきものであるから、被告らは本件リース契約の約定にしたがいリース料を支払うべくその支払いを怠れば、約定にしたがい、原告は本件リース契約を解除できるのである。

第三証拠《省略》

理由

一  ファイナンスリースについて

ファイナンスリースとは、特定の物件の使用を希望する者(ユーザー)が、資金力がなかったり、購入を欲しない場合、自ら購入する代りにリース業者に依頼して販売業者(サプライヤー)より当該物件を購入してもらい、しかる後、リース業者よりその使用収益の承諾を得て、一定期間内に定期的に一定額のリース料の支払いを約束し、リース業者は、右リース料によりリース物件の購入代金等の投下資本を回収するという仕組みの取引である。

ユーザーはサプライヤーとリース物件について、購入価格等売買条件を交渉し、決定された条件を前提にリース業者に対し、リースを申し込む。リース業者は物件の選定や条件の交渉には全く関与しない。リース業者が右申込を承諾する場合は、右決定された条件でリース物件をサプライヤーより購入し、ユーザーとリース契約を締結する。リース料は、リース物件の購入代金、それに対する金利、保険料等の投下資本を合計した金額からリース期間満了時におけるリース物件の残価を控除した金額をリース期間内に回収できるように定められる(残価を零とみて投下資本のすべてを回収できるようにリース料を定めるのをフルペイアウト方式、残価を見込むのを残価方式という。ファイナンスリースの多くは前者であるといわれる。)。したがって、同じ物件のリースであっても、リース期間の長短(あるいは残価が見込まれるかどうか)により各期のリース料は異なり、リース期間が長くなれば(また、残価が見込まれれば)、リース料は安くなる。リース契約締結後、ユーザーはサプライヤーより直接リース物件の引渡を受けて使用収益を開始する。

リース料は、いうなればリース業者の投下資本の総額(あるいはそれより残価を控除した額)であって、リース契約の当初において定まっており、各期のリース料はリース期間に按分して割賦払を認められているものであり、リース料の支払を受けることはリース業者にとっては投下資本の回収であるため、この回収が計られることがリースの基本的な要請である。また、リース業者はリース物件の所有権を取得するものの、その選定にも一切関与せず、当該物件についての知識、補修の技術等を有していない。そのため、リース契約は一見賃貸借契約の形式を取っているものの、右リースの内容に対応して賃貸借契約とは以下のような相違がある。すなわち、ユーザーによる中途解約を一切認めず(これを認めると、リース料の支払により投下資本の回収を計るというリースの目的が達成されなくなり、リースの存在理由を否定することになる。)、リース業者はリース物件について民法の瑕疵担保責任を負担せず(リース業者がリース物件について知識等を有しないことに対応する。)、危険負担について債権者主義を採用し、リース物件が不可抗力で滅失した場合でもリース料の支払が受けられ(リース料の支払を受けることが投下資本の回収にあることに対応する。)、リース料の支払の遅滞等ユーザーに債務不履行があった場合は、リース物件の返還及び残リース料(あるいは残リース料相当額の規定損害金)を一括して支払請求できる(各期のリース料が実質割賦金であることに対応する。)ようになっている。

以上のとおり、ファイナンスリースにあっては、リース業者は、使用収益を目的とせずに(ユーザーに使用収益させるために)リース物件の所有権を取得するもので、リース業者の最大の関心事はリース料の支払確保にあり、物の使用と所有が完全に分離し、リース物件の所有権はリース料の支払を確保するための手段と化している。その意味でリース物件の所有権はリース料の支払を担保する機能しか有していないともいえる(とりわけ、残価が零のフルペイアウト方式によりリース料が定められるリースにあっては、リース期間における使用の総体が所有権に等しく、リース期間満了時におけるリース物件の価格は、おそらく現実にも零であることが通常であろうから満了時における所有権をうんぬんする意味は殆どないと考えられる。つまり、リース期間中の所有権だけに意味がある。)

要するに、ファイナンスリースとは賃貸借契約と類似の形式を有するものの、その実質においてはリース物件を介した金融であって(リース契約は民法の典型契約のいずれにも当てはまらない消費貸借契約、賃貸借契約的なものが混合した無名契約というべきであろう。)、リース料は契約当初において発生しており、各期のリース料はその履行について割賦弁済が認められているに過ぎず、各期のリース料とその期間におけるリース物件の使用収益とは対価関係にない。また、リース物件の所有権はリース業者に帰属してはいるものの、その機能はリース料の支払の担保にあり(リース物件が中途で返還された場合、期間満了時の残価と返還時の価値との差額について清算を要するとすることもこのことを裏ずける。最判昭和五七年一〇月一九日民集三六巻一〇号二一三〇頁参照)、特に残価を予定しないフルペイアウト方式のリースにあっては期間満了時までに、リース物件の所有権はいわば使い切られてしまうのであって、その機能が担保にあることは一層明らかである。

二  本件リース契約について

請求原因1の事実は当事者間に争いがなく、右事実及び《証拠省略》によれば、本件リース契約は、その約定において前記ファイナンスリースにおける特色と見られる条項が設定されており、ファイナンスリースと認められる。また、本件リース物件は印紙税納付計器及び郵便料金計器というものであり、余り汎用性がなく、中古市場もないやや特殊な物件と推測され、したがって、リース料金もフルペイアウト方式により定められたものと推認される。

三  法一〇三条一項の適用について

法一〇三条一項は「双務契約について会社およびその相手方が更生手続開始当時まだともにその履行を完了しないときは、管財人は、契約を解除し、又は会社の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」と、法二〇八条は、管財人が右により履行を請求した場合の相手方の請求権は共益債権となる旨定める。

本件リース契約が双務契約であることは明らかであるから、本件リース契約に法一〇三条が適用されるかどうかは、まづ、原告及び被告に履行を完了していない債務(未履行債務)があるかどうかによる。

法一〇三条は、一般に双務契約における当事者双方の債務は互いに対価的関係を有し、相互にその債権債務を担保視し合う関係にあるとこうから、更生手続が開始されても、公平の観点から会社の相手方の右期待に伴う利益を保護し、かつ更生手続きを円滑に進行させるために設けられた規定であると解され、したがって、同条の「双方に未履行の債務がある」とは少なくとも相互に対価的関係を有する債務がお互いに未履行であり、公平の観点上会社の債務を履行させた場合(あるいは履行させない場合)は、相手方の債務も履行させる(あるいは履行させない)ことが妥当であるような関係にある場合をいうものと解するのが相当である。

右の観点から本件リース契約について双方未履行の債務があるかどうか検討する。一般にファイナンスリース契約において、リース業者の義務を考えると、前記契約の内容に照らし、リース物件を購入し、これをユーザーに引渡し(引渡義務についてはこれを否定する見解もあるが、本件リース契約では《証拠省略》によれば原告の引渡義務が定められており、同義務の存することは明らかである。)、かつ、リース期間を通じてリース物件をユーザーに使用収益させる義務があるものと認められる。これに対し、ユーザーはリース期間を通じ定められた支払期毎に(各期に)リース料の支払義務を負担する。

本件リース契約において本件リース物件が引渡しずみであることは前記のとおり当事者間に争いがないので、原告の義務として残っているものは、リース期間中本件リース物件を使用収益させる義務(引渡後は使用収益を受忍する義務ということになろう。)であり、被告の義務として残っているものは支払期の来ていないリース料の支払義務である。そこで、本件リース契約に法一〇三条の適用があるかどうかは、原告の右使用収益を受忍する義務と被告の右リース料の支払義務が同条の双方未履行の債務といえるかどうかによるということになる。

前述のとおり各期のリース料は、全リース料がその履行について割賦弁済を認められたことによる割賦金であり、各期におけるリース物件の使用収益とリース料の支払いは対価関係がない。したがって、右使用収益を使用収益を受忍する義務と置き換えてみてもこの義務とリース料の支払いは対価関係にあるとはいえない。また、ファイナンスリースにおいては、ユーザーがリース物件の使用ができない場合であっても、理由のいかんを問わずリース料の支払義務を負担するものであり(《証拠省略》によれば本件リース契約でも同様のことが約されていることが認められる。)、リース料の支払いはいったんリース契約が成立した後はその使用収益いかんにかかわらずなされなければならないのであって、この点からもリース物件の使用収益(使用収益の受忍)とリース料の支払いは対価関係にない。

右のとおり、本件リース契約においては、法一〇三条適用の前提となる対価関係を有する双方の債務の未履行はないといわざるを得ない。

したがって、本件リース契約について法一〇三条の適用はなく、本件リース料債権は更生債権であり(リース物件の所有権が前述のとおりリース料支払いの担保の機能を有することからすれば更生担保権と考えるのが相当であろう。)、更生手続によってのみその支払いが許されるものである。

本件リース契約について右のように結論ずけることは以下のような観点からも相当と考える。すなわち、前記のとおり本件リース契約においては、リース料はフルペイアウト方式により定められており、リース期間満了時における所有権は前述のとおり使い切られることが予定されていて(つまり期間満了時においては無価値)、リース期間における利用の総体が所有権に一致しているもので、満了時における所有権の帰属にはさしたる意味がなく、リース物件の所有権はその実質においてリース料支払の担保の機能しか有していない。その意味で、本件リース契約は実質的には所有権留保付売買と類似しており(留保売主も留保期間中は売買物件について使用収益を受忍する義務を負担し、買主は売買代金について割賦弁済を認められ、定期に割賦金の支払義務を負い、物件の所有権は売買代金の支払いを担保する。)、更生手続上も留保売主以上の保護を与える必要はないといえるからである。

四  本件リース契約の解除について

請求原因3、4の事実は当事者間に争いがない。

しかしながら、前述したとおり、本件リース料債権は、更生債権であり(更生手続開始決定前の未払リース料債権は当然更生債権と解する。)、更生手続によってのみその支払いが許されるものであるから、更生手続開始決定後において本件リース契約の約定にしたがった支払いがないとしても、それを債務不履行とはなし得ず、本件リース契約を解除することはできない。

もっとも、原告の主張からすると、更生手続開始決定前のリース料の支払いがないことも契約解除の理由になっているようであるが、弁論の全趣旨からすると、右手続開始前の不払は、弁済禁止の保全処分がなされた後で更生手続開始決定前に履行期の来るリース料についてその不履行を主張するものと認められ、右のように弁済禁止の保全処分がなされた場合は、その後に履行期のくるリース料の不履行を理由として本件リース契約を解除することはできないものというべきであり(最判昭和五七年三月三〇日民集三六巻三号四八四頁参照)、結局、原告の解除の主張は理由がない。

五  結論

本件リース契約について法一〇三条の適用はなく、本件リース料債権は更生債権であり(原告は本件リース契約の解除を前提として未払リース料及び規定損害金の請求をしているが右のとおり解除は認められないのでそもそも規定損害金の請求はできない。)、更生手続によってのみ支払が許されるものであるから、通常の訴訟手続では支払いを求め得ないものであり、原告のリース料の支払いを求める請求は不適法であるのでこれを却下し、また、本件リース物件の引渡を求める請求(付帯請求も含む)は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小田泰機)

<以下省略>

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